20180609 第55回集いを開催致しました!

意外に近い台湾と東南アジアの繋がり                           ~日本統治時代から蔡英文政権「新南向政策」まで~

 6月9日、大阪市内のフラッグスタジオにて第55回日本と台湾を考える集いを開催致しました。今回は台湾に関する著書を多数執筆されております酒井亨先生をお招きし、いつもとは違ったアカデミックな視点で台湾へのアプローチを行いました。また、サブスピーカーとして我々スタッフの朝河からマレーシア駐在時の経験を元に中華系マレー人に関する報告を行いました。

 

 これまで台湾という地理的範囲内で台湾を捉え政治、社会、文化を語って参りました。しかし、中華人民共和国が拡張を続けその勢力を果てはアフリカ迄延ばそうとしている時に、台湾だけでは語れない状況が国際政治の世界では繰り広げられております。台湾は国際社会での生き残りを掛け、この状況をどう乗り切ろうとしているのか。

 

 北は日本と組み、南は東南アジアとの連携を強め中華人民共和国の脅威に立ち向かいます。同じくその脅威を受ける日本はその台湾の動きと連携しこの複雑化する東アジア情勢の中で如何なる立場を取るべきか。国際政治の最先端とマレーシアの現場からの報告をもとに日本と台湾を考えました。


講師ご紹介 酒井 亨氏(公立小松大学准教授) 

 

略歴:

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、台湾大学法学研究科修士課程修了。

大学卒業後、共同通信社記者。退職後は台湾に移住し、民主進歩党系シンクタンク「新境界文教基金会」に勤務する。神戸大学大学院国際協力研究科客員教授、金沢学院大学経営情報学部准教授を経て今年4月、公立小松大学国際文化交流学部准教授就任 

 

 

著書:

「台湾海峡から見たニッポン」、「「親日」台湾の幻想」、「台湾人にはご用心!」、「中韓以外、みーんな親日: クールジャパンが世界を席巻中」、「アニメが地方を救う!!~「聖地巡礼」の経済効果を考える」、「アジア 反日と親日の正体」、「台湾×夜市:ワンテーマ指さし会話」等多数。 

 

 


酒井先生の講演内容


中華系マレー人について

 中華系マレー人について講演を行う集いスタッフの朝河です。マレーシアに駐在していた時の体験をもとにした報告です。

 

 華人、華僑。我々がイメージとは違い、見た目は中華系でもアイデンティティはマレーシアに有り。実体験に基づくとても興味深い報告でした。

 


(報告2) 中華系マレー人(華人)について 

朝河孝元 氏

 2014年から2016年までの3年間、シンガポールに隣接するマレーシアのジョホールバルに仕事の関係で滞在した。

当集い第49回の報告では、マレーシアでの生活の模様など入門編的な話をしたので、今回は中華系マレー人について紹介したい。

 

 マレーシアにはマレー系、中華系、インド系がいる。中華系マレー人にもいろいろあり、一番多いのは1代目(じいちゃん・ばあちゃん世代)が1900年以降にマレーシアに移り住んできた人達。仕事で知り合ったマレー人2人へのインタビューを通して、中華系マレー人についてイメージを持っていただければと思う。

 

・1人目 友人A君 (会社近くで喫茶店を営む30代既婚男性)

 

 マレーシア東部クワンタン出身。客家語(はっか)、福建語(ほっけん)、マンダリン、マレー語、英語の5か国語を使える。他にも、店に来る客に合わせて、日本語を含めいくつかの言葉を少し話せる。80年代以降、特に2000年以降に義務教育を受けた世代では、マンダリンが中心で、客家語、福建語はあまり分からなくなっている(1980年代にマレーシアと中国の国交が結ばれてから中華学校でマンダリンを勉強することになった)。客家語、福建語を話せるのは、自分たちのルーツとして、母方か父方の言葉だったため。マンダリンとマレー語は中華学校で習う。高校や大学で使われるテキストは英語なので、英語も必須になっている(ただし、会話では中国語やマレー語の影響を受けた独特の英語が使われることがある)。

 

 アイデンティティを聞くと、「自分はマレーシア人だ」と即答する。シンガポール等では、小学校から英語しか使わず、中華系であっても、中国語は話せても書けない場合がある。それに比べると、マレーシアの華人は、中華学校でマンダリンを習うので中国語が使え、中華系であることを維持している(インドネシア等でも中国との関係が強まるに連れて、自主的に中国語を学ぼうという動きは強まっている、と聞いた)。マレーシア系とシンガポール系の華人同士が、結婚する可能性はあるか、を聞くと、国籍・アイデンティティが違うので基本的には「ない」とのこと。

 

 最後にマハティール新首相について聞くと、華人の王であるジョホール王をマハティールさんが尊敬していることから、(華人が尊敬する国王を尊敬するなら大丈夫だということで)マハティール新首相に期待しているという回答だった。

 

・2人目 職場の同僚Bさん (カリマンタン島出身の40代既婚女性)

 

 化学系の大学を出て地元の仕事を探したが、仕事は半島の方にしかなかった。マレーシアではブミプトラ政策(途中で入ってきた中国系マレーシア人やインド系マレーシア人よりも、初めからその土地に住んでいるマレー人を雇用,教育などの分野で優遇する制度)で、どの国立大学にもマレー人の優先入学できる枠(定員の68割)が割り当てられている。残りの枠をほかの華人等が争うことになるため、そこに入るには高い偏差値が必要で狭き門になる。

 

 マレーシアは女性の社会進出がすすんでいて、7割くらいの女性は、結婚・出産しても子育てと両立しながら仕事をしている。出産前1カ月と出産後2カ月の合計3か月くらいを休む以外は職場に出ている。ベビーシッターや保育所を利用しやすい環境がある。14時間預けて月額が1万円程度の負担ですむことから、女性も子供を預けて仕事に復帰する方が有利。シンガポールに近いジョホールバルは物価が高く、共働きでないと大変、という事情もある。子供を育てることに対しては、将来に向けて投資的に見る意識が高い。子供が沢山いれば、自分の老後が楽になるから、沢山育てようという意識。それで教育にも熱心で、2~4歳で英語は習い始める。イギリス系のインターナショナルスクールなども人気で、将来世界に羽ばたくような子育てを意識している親も多い。職場から定時に帰るのは、あたりまえ。

 

 マレー人同士の会話ではマレー語。イスラム圏なので、ハラル料理を食べる。マレー人と華人の結婚はほぼない(生まれた子供は中華系として扱われ、ブミプトラ政策のもとではマレー人、華人のどちらにも一緒になるメリットがないため)。華人や日本人など、マレー人のいない宴会などでは、ブミプトラ政策のグチが出る。(大学に入れないと技師などの国家資格がとれず、資格がないと国家公務員にもなれない環境のため)オフの時に、マレー人が中華系と過ごす、ということもあまりない。

 

まとめてみると・・・

 

 自分としては華人について中国との関わりを最初イメージしていたが、彼らのアイデンティティは「自分はマレーシア人」であって、中国に対して特に親近感も持っていないことがわかった。中国語が話せることを自分の特長と捉えている程度。自分の個というものをしっかり持って、多民族国家マレーシアの中で生きているという印象。

 

 また、日本に対するスタンスは、いたって中立的。過去の歴史については意識していなくて、東アジアからいま入ってくる情報を同じように受け止めていているようだ。30代以上は日本アニメの影響が強かった。20代以下はKPOPの影響で韓国のイメージが強い。

 

 華人ならではの文化として、旧正月に料理の皿を高く掲げることが恒例行事になっている(高く掲げるほど自分の夢や希望が叶うとされる風習)。

 

 過去にイギリスが東南アジアを支配した時には、イギリス人が直接ではなく、華人に現地人を管理監督させる体制をとっていた。その中華系を日本軍が追い払ったというのが現地での共通認識。なので、シンガポールなどの華人は「自分達が日本のせいで被害を被った」という意識を持っていることが多いが、移住してきた歴史が比較的浅い中華系マレーシア人にとっては、そのあたりはひとつの歴史でしかないようだ。ジョホールバルの歴史館は「祖国を独立させたきっかけ」として戦争を捉えていて、日本軍がいかに果敢にジョホール水道を超えていったかを讃えているのに対して、シンガポール側の歴史館では歴史の事実だけを並べているあたりに、スタンスの違いが感じられる。ひと言で華人と言っても、出身地や来た年代によって、日本に対する感情はかなり違う印象を受けた。

 



質疑応答内容


当日は台北駐大阪経済文化弁事処の黄水益部長にもお越し頂きご挨拶を賜りました。黄部長、有り難う御座いました。


今回より茶話会という形で皆さんの交流をはかれる場を設けました。